原 爆 忌 ( 3 ) *

          夏…モノクロの 写真ばかりや 原爆忌
            文明が 滅びし後の 原爆忌

            戦争の 底ひに国家 夾竹桃
            国ありて 戦禍は絶えず 原爆忌

            中指で さぐるトリガー(引金) 溽暑の夜
            愚者の夏 戦争の種 尽きまじく

            ヒロシマ忌 百年後にも いくさして
            この星が 廃炉になる日 被爆者忌

            地に戦 絶えざるままぞ ヒロシマ忌
            滅亡に 至る戦争 夏天の悲

            核の世や 日傘ひらけば 骨がない
            むきだしの 目玉の乾く 真炎天

            髪抜けの 片目つぶれの ヒロシマ忌
            目を閉づな 目玉濡らすな ピカドン忌

            わが骨に つく肉剥がせ ピカドン忌
            雲の峰 憤怒のこぶし 突きあげて

            許すまじ 核残る世の ピカドン忌
            人住めぬ 星となりても ヒロシマ忌

            にんげんを 返せと叫ぶ 被爆者忌
            にんげんの 姿まぶしき 原爆忌

            忘るるな 軍都が末の 原爆忌
            炎天を 来て慰霊碑の 小暗がり


            人なくば 平和な地球 原爆忌
            武器は厭 素手で紙切る 夏の夜

            ヒロシマ忌 いくさにはなき 覇者勝者
            ヒロシマ忌 武器で平和は 勝ちとれず
            いくさすな 人殺すなと ヒロシマ忌

            ヒロシマ忌 類たるゆえの 英知もち
            ヒロシマ忌 人は夢みる 力もつ

            「絶対調和」てふ 夢の噴水 夢時間
            噴水の とはに巡れや 静か世に
            御来迎 生き病み死する 諸人に

            人が息 できるしあはせ ヒロシマ忌
            死の街に 生見る喜び ヒロシマ忌

            青葉して とはの緑ぞ 蘇れ
            平和祈念日 天地に光 あふれしめ

            ヒロシマ忌 天に届けや 人の声
            ヒロシマ忌 フランチェスカの 鐘が鳴る

            殺されず 殺しもせぬ世 ヒロシマ忌
            原爆忌 生きめやもいざ 生きめやも


            竹林の 影につまづく 夏の果
            夏果てて ロボツト兵が 銃の先

            原爆忌 地獄見て来し 貌をして
            色紙を 三角に折る 夏の果

            片蔭の ねぢれて溶けて 爆心地
            一度とて 祈ることなし 原爆忌

            晩夏光 死なば離るる 影背負ひ
            ふるさとを 出づればひとり 原爆忌
            原爆忌 故山へ続く 道遠し

            わが背ナの 十字架重き ヒロシマ忌
            忘れむと たつたひとりの 原爆忌

            ヒロシマ忌 こぶしをとけば 五指が手に
            夏空に ひとり静かに 鳩放つ


          秋…街熔けて 八月の空 底なしに
            長崎忌 マリアの像は 首傾げ

            死児背負ふ 少年の黙 ナガサキ忌
            八月の傷や 瘡蓋とれもせず

            広島忌 過ぐればすぐに 長埼忌
            八月や 問はねど語る 被爆譚
            八月の 折り皺深き 記憶かな

            天を指し 地を平らかに ナガサキ忌
            人を恕し 罪を裁かず ナガサキ忌

            罪人の 罪をも背負ふ ナガサキ忌
            祈ること 重ねてめげず ナガサキ忌

            ナガサキ忌 母なき子にも 聖母像
            八月の 光集めて 祈るひと

            忘るるな 八月の空 炎えしこと
            忘るるな 破鏡に映る 八月を

            八月や 失ふものは なにもなく
            八月や ああナガサキの 鐘は鳴る


          春…被爆樹も 生きし語り部 木の芽立つ
            被爆樹や 一枝あまさず 芽吹きゐて

            芽立の音 水音風の音 大地の音
            いくさすな 木の芽草の芽 摘み取るな

            生きめやも 芽吹きそめたる 爆心地
            被爆地に とはに芽吹けや 命の樹

            ひこばえや 挫折を超えて 人も生く

          夏…青葉して とはの緑ぞ 蘇れ(原民喜「永遠のみどり」)   俳子


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