原 爆 忌 ( 3 )  *

           夏…色紙の 裏側黒き 原爆忌
             折紙に 影をたたみて 原爆忌

             ヒロシマ忌 飛ぶもかなはぬ 紙の鶴
             ヒロシマ忌 折鶴千羽 糸ざしに

             紙の音 立てて哭く鶴 ヒロシマ忌
             ヒロシマ忌 吊るせば重き 千羽鶴

             折鶴の 心音を聞く 黙の夏
             禎子の碑 祈れば静か 蝉しぐれ

             折鶴の 飛べざる夏や 禎子の碑
             夏空へ放て 千羽の紙の鶴

             炎天に 千羽の鶴の 紙の音
             原爆忌 折鶴の羽 折れしまま

             折鶴の 嘴は中折れ ヒロシマ忌
             原爆忌 首を折らねば 鶴できず

             息入れて できる折鶴 ヒロシマ忌
             原爆忌 紙の鶴には 足がない

             色紙を 折りて広げて 黙の夏
             折鶴を 開けば皺む 原爆忌


             慰霊碑に 重ねる手と手 ヒロシマ忌
             慰霊碑の 向ふにドーム 黙の夏

             慰霊碑や 祈りの影の 灼け焦げて
             旱雲 人類愛も 干乾びて

             黙祷や うるさきほどの 蝉しぐれ
             蝉しぐれ 送る言葉が 胸をさす

             合掌や 静か心に 遠き夏
             風死して 被爆ドームの がらんどう

             空よりも 地よりも灼けて 慰霊の碑
             炎昼や あの日のやうに 街歪む

             炎天や 祈りの影は 孤を深め
             原爆忌 黒き花影を 供華として

             生き死にを 云ふも切なき 被爆者忌
             被爆者忌 いかりを黙に 封じこめ

             ただ祈り ひたすら祈る 被爆者忌
             諦念の 重きに耐ふる 被爆者忌

             黙の夏 鳩の羽音の 天翔ける
             夏鳩の こぼす光の 尊かれ

             鎮魂の 鍵盤重し 原爆忌
             主なき 被爆ピアノや 原爆忌

             雄弁に まさる沈黙 ヒロシマ忌
             祈りてや 夏に還らぬ 人偲ぶ


             原爆忌 万霊のこゑ 地にあふれ
             原爆忌 万にひとつの 声を聞く

             茂れるや 草木も生えぬ 地といはれ
             草茂る 呼べど還らぬ 人あまた

             風死すや 天地人みな 病めるがに
             風死すや 線香の香の 死臭めく

             風死すや ドームの洞に 闇迫る
             風死して ドームにこもる 闇の声

             離れては 寄る流燈の 五六灯 季:秋
             流燈の 迷へるごとく 上流へ
             流燈の 闇に迷へば 川濁る

             寄る辺なき 魂ぞ漂ふ 流燈会
             流燈や 川面を惑ふ 魂いくつ

             流燈や 声なきこゑを 聞く夕べ
             流燈や 魂は川面を 離れざる

             流燈の 灯りどこまで 天宇まで
             流燈の 末は夜空の 星が屑

             万燈の 流れて暗き 被爆川
             流燈や いのちの果ての 闇深し   俳子


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