原 爆 忌 ( 2 )  *

           夏…街灼くる めくれて垂るる 人の皮
             皮一枚 剥げば肉塊 街炎ゆる

             炎天や 脳天つつむ 皮裂くる
             炎天や 頭皮めくれて 干乾ぶる

             街灼けり 底ひを死者の 影過ぐる
             片蔭や 死者も影もつ 右半分

             原爆忌 ひとつところに 死者生者
             死者生者 炎暑の街に すれ違ふ

             「助けて」の 声も出せずに 終の夏
             親が死に 妻子も死にて ピカドン忌

             ケロイドの 跡もあらはに ピカドン忌
             ピカ一瞬 傷悲終生 原爆忌

             炎宙に 漂ふものは 影持たず
             原爆忌 死児の齢を 数へける

             卒寿まで 被爆秘す母 原爆忌
             原爆忌 没者名簿に 母の名も

             爆心地 なるを知らずか 蝉高音
             蝉しぐれ 深き祈りは 声持たず
             飴色に なるまで鳴きて 蝉の夏

             羽化できぬ 蝉が一匹 ヒロシマ忌
             落蝉の なきがら軽し 原爆忌

             空蝉の 目玉が映す 爆心地
             空蝉の 洞に風泣く 爆心地

             ピカドンの街や 萎るる夏幻花
             夏の花傾ぐ 爆心に背を向けて

             夏日濃し 白極まれば 黒と化し
             夏日濃し 黒きものまで 眩しくて

             原爆の日や 慰霊の碑より 黒き蝶
             今生の 今を狂ひて 夜蛾燈蛾

             神さびし 灯蛾ドームの 闇に落つ
             死の川や 夜蛾火蛾燈蛾 溺れしむ

             神ゐぬか 神狂ひしか ピカドン忌
             晩夏光 死者は生者を 許さざる


             色紙の 裏側黒き 原爆忌
             折紙に 影をたたみて 原爆忌

             ヒロシマ忌 飛ぶもかなはぬ 紙の鶴
             ヒロシマ忌 折鶴千羽 糸ざしに

             ヒロシマ忌 吊るせば重き 千羽鶴
             折鶴の 心音を聞く 黙の夏
             禎子の碑 祈れば静か 蝉しぐれ

             折鶴の 飛べざる夏や 禎子の碑
             夏空へ放て 千羽の紙の鶴

             炎天に 千羽の鶴の 紙の音
             原爆忌 折鶴の羽 折れしまま

             原爆忌 首を折らねば 鶴できず
             息入れて できる折鶴 ヒロシマ忌
             原爆忌 紙の鶴には 足がない

             色紙を 折りて広げて 黙の夏
             折鶴を 開けば皺む 原爆忌


             慰霊碑に 重ねる手と手 ヒロシマ忌
             慰霊碑の 向ふにドーム 黙の夏
             慰霊碑や 祈りの影の 灼け焦げて

             黙祷や うるさきほどの 蝉しぐれ
             蝉しぐれ 送る言葉が 胸をさす

             合掌や 静か心に 遠き夏
             風死して 被爆ドームの がらんどう

             空よりも 地よりも灼けて 慰霊の碑
             炎天や 祈りの影は 孤を深め
             原爆忌 黒き花影を 供華として

             黙の夏 鳩の羽音の 天翔ける
             夏鳩の こぼす光の 尊かれ

             鎮魂の 鍵盤重し 原爆忌
             主亡き 被爆ピアノや 原爆忌

             雄弁に まさる沈黙 ヒロシマ忌
             祈りてや 夏に還らぬ 人偲ぶ


             原爆忌 万霊のこゑ 地にあふれ
             原爆忌 万にひとつの 声を聞く

             茂れるや 草木も生えぬ 地といはれ
             草茂る 呼べど還らぬ 人あまた

             風死すや 天地人みな 病めるがに
             風死すや 線の香の 死臭めく

             風死すや ドームの洞に 闇迫る
             風死して ドームにこもる 闇の声

             流燈や 声なきこゑを 聞く夕べ 季:秋
             流燈の 迷へるごとく 上流へ
             流燈や 魂は水面を 離れざる

             万燈の 流れて暗き 被爆川
             流燈や いのちの果ての 闇深し   俳子


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