兵の墓
 
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      2021年 秋 ( 1 )   *  
 地闇より 近き天宇や 星祭
 天上の 宴いかにか 星祭
 国男忌や 里の池にも 河童出づ
 天を指し 地を平らかに ナガサキ忌
    北村西望制作の長崎平和祈念像。
    天を指した右手は“原爆の脅威”を、
    水平に伸ばした左手は“平和”を、
    軽く閉じた瞼は“原爆犠牲者の冥福を祈る”とされる。
 人を恕し 罪を裁かず ナガサキ忌
 罪人の 罪をも背負ふ ナガサキ忌
 祈ること 重ねてめげず ナガサキ忌
 ナガサキ忌 母なき子にも 聖母像
 八月の 光集めて 祈るひと
 死児背負ふ 少年の黙 ナガサキ忌
 八月や ああナガサキの 鐘が鳴る
    サトウハチロー作詞、古関裕而作曲 『長崎の鐘』より。
    戦中に軍歌を作った古関裕而の贖罪の曲。
    古関精神の浄化はここに極まりて、清き調べをなす。
    が、ナガサキの戦後は屈折していて、
     『長崎の鐘』の絶唱となることは、一度としてなかった…
 広島忌 過ぐればすぐに 長埼忌
 八月や 問はず語りの 老寡婦に
 八月や 忍苦が末の 無一文
 八月や 鍋釜すらも 奪はれて
 八月の傷や 瘡蓋とれもせず
 忘るるな 八月の空 炎えしこと
 忘るるな 破鏡に映る 八月を
 秋暑し ポテトチップの 反り曲り
 秋暑し ビリケンさんの なが長座
 鉄匂ふ 町に風なし 秋暑し
 秋暑し 首静脈の 青き管
 秋暑し 耳掻きほどの 垢出でて
 死に支度 するは早きか 盆用意
 父母の名 祖父母の名あり 墓洗ふ
 墓洗ふ 古き閼伽水 かへもして
 墓洗ふ 墓地が底ひの 声聞きつ
 祖父母父母 子まご揃ひて 盂蘭盆会
 盂蘭盆や 無縁塚への 誘ひ風
 約束の ままにて終る 盆帰省
 生身魂 笑ひ仏の ごとおはし
 盆秋や 死すらば縮む わが五体
 天に舞ふ 指美しき 阿波踊り
 純情の をのこみな死ぬ 秋初月
 零一の 無限の連鎖 秋暑し
 百尺竿頭 千思万考 秋暑し
 反骨の 心ふにゃふにゃ 秋暑し
 朕なんじ 臣民に告ぐ 敗戦日
 敗戦日 つむりがごわぁんと 嘆き鳴る
 不見識と 愚か采配 敗戦忌
 影薄き 兵が列なす 敗戦忌
 勝つまでは 欲しがりませぬ 敗戦忌
 焼跡の 空広うして 敗戦日
 敗戦忌 また戦争が 墜ちてくる
 開戦日 なければいらぬ 敗戦忌
 終戦忌 修して次の いくさへと
 五年後の 自分に会へる 敗戦忌
 手を胸に 国歌斉唱 敗戦忌
 沈黙は 無力な言葉 敗戦忌
 八月十五日だけの 反戦家
 八月の亡霊 白き影をもち
 八月の墓に 声なく眠る骨
 八月や 失ふものは なにもなく
 墓の秋 水兵さんは 齢取らず
 死してなほ 生を終へざる 兵の秋
 戦前の 八月が来て 黙深し
 秋蔭や 還りこぬ人 待つことも

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