梅雨茸
 
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      2021年 夏 ( 10 )   *
 梅雨本番 園児が傘の 赤黄青
 真直ぐには させず二歳の 梅雨の傘
 梅雨半ば 雨は真すぐに 庭を打ち
 寝ねて雨 覚めてまた雨 梅雨半ば
 雨音を 聞くに疲れて 梅雨半ば
 梅雨の家の 屍斑めきたる 壁の滲み
 梅雨深し 庭木はなべて 泪の木
 梅雨深し 身内の沙汰の 疎ましく
 去るひとの 音のみ残る 梅雨の夕
 梅雨深し 暗き夜道を 傘さして
 門川の 水嵩も増せり 梅雨の夜
 心音の 漏るる夜闇 梅雨深し
 傘白く 雨靴赤く 梅雨暗し
 深梅雨や 摩耶に滑め坂 ころび坂
 昼暗し 梅雨の底ひに 川激し
 手を伸べて 出水が跡の 高さまで
 梅雨茸 昼でも暗き 森奥に
 梅雨茸の 能くさびらの ごと殖えて
 人間は 地球の黴ぞ 菌伸ばす
 白黴や リストカットの 跡深く
     小学校6年間を同窓で過ごした青年、
     幾度となく自殺未遂を繰り返して、
     最期には、三島由紀夫の後を追って果てた。
 押入れの 黴の臭ひが 脳天へ
 忍び来て 脳にはびこる 白き黴
 人類の 滅びし後も 黴の花
 黴わきて バイキンマンの ハヒフヘホ
 赤貧の 入らば出られぬ 黴の家
 横向きに 入る古書肆屋 黴臭ふ
 黴臭き古書肆や 黙の横歩き
 万札も 青く黴れば 触れがたし
 花咲くも 困りしものぞ 黴の花
 セロテープ 朽ち剥がれてや 紙魚の川
 若き日の 愛読書いま 紙魚の海
 紙魚巣くふ 読まずに積みし 和書洋書
 紙魚走る 古書万巻を 読むにたけ
 和書洋書 漢籍問はず 紙魚齧る
 紙魚齧る わが自信句も 穴だらけ
 結末は 二転三転 紙魚の跡
 這ふ紙魚の 「安宅の関」に 阻まるる
 紙魚の穴 真犯人の 名を隠す
 プルーストの 小説長し 紙魚圧死
 滲み多き 活字の海を きららむし
 句狂ひの吾や 歳時記のきららむし
 蠛蠓や 追へば追ふほど まとひつき
 むらさきの ヘドロを舐むる なめくぢら
 濁穢の 這ひ跡ひかる なめくぢら
 蛞蝓の はみだしてゆく 下水溝
 死にもせで 蛞蝓縮む 塩地獄
 虫干や ボードレールも ランボーも
 誰か死ぬ 仙人掌の花 散りをれば
 鉄砲百合 声のデカきが 威張りゐて
 地中海 バルコニーより カサブランカ
 カサブランカ 人の溺るる 香を放ち
 致死量の 香を放ちてや 百合の花
 蝶誘ふ 形に開く 百合の花

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